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雨上がりの灰色の雪空 真空管が並んだ街 君のうなじのような丘 絶望さえしない街
大好きなコーヒーを飲みに、なじみのカフェ『スロウメロウフロウ』に向かった。
だらしないコートを引きずり、泥に汚れ固まった雪をブーツで踏み潰し
黒い影の僕が「合一という事にたいして大変腹を立てていた」とつぶやいていた。


白く雪が覆いかぶさった泉野小学校の校庭にひとり
女子中学生がぽつんと立っていた。
足跡がないことから、雪が降る前からそこにいたことがわかる
どうでもいいから ほうっておこう


細い夕方の月
カミナリさえならず、雪に吸い込まれる足音を立てた
歩いてすぐの店『スロウメロウフロウ』


『スロウメロウフロウ』 オレンジのライトで 『スロウメロウフロウ』と書いてある
ぱっと見何の店かわからない、(僕はカフェだと思っている)
ガランという音をつなぎとめて、僕は店に入る
いつも違うバイトの女の子がお出迎え、 「君で何人目?」
「私でちょうど60人目です」さわやかな笑顔で答えてくれたありがとう。
「はずれ、きみは58人目だよ 僕が言うんだから間違えない」とからかって言うと、
お水を持ってきてくれた。
「ご注文は?」とちょっとめんどくさそうに聞かれた 「コーヒー」
「あー 温かいのね。」
「暫くお待ち下さい」 バイトの子がいなくなった。 暖炉で焦げる木材の匂いがとげとげしく香る
よくなじんだソファは僕の気持ちをゆるく下げ 足を投げて、机の角にぶつけた、
隣のソファの客が、なにやらガリガリと絵を描いていた
紙からずっとはみ出しているのも気づかずに、ボールペンのボールが取れているのに 何かを描き続けていた。
「お待たせしました。」 とさっきとは違うバイトの子がやってきた。
白い未発達の美しい手で、コーヒーとミルクと角砂糖のポットを僕の前に置いた。
「ごゆっくり」 バイトの子がいなくなった カチカチカチと時計が何周かまわった。


昔の彼女がやってきた、右目と右の心がえぐれただれていたので、
「右目と右の心どうしたの?」とたずねてみた。 そしたら、
「右目は私が飼っていた犬が死んだから、右の心はあなたが死んだから」 と言っていた。
「死んだ僕がなんで君と喋れるんだい?」
「私はあなたを殺そうと思って『スロウメロウフロウ』にきたのよ」
「そんな細い肩と、細い腕と、細い指先で、どうやって僕を殺すんだい?」
「簡単よ」