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事故
6時間事故で、トンネルから出られなかった
春もまだ明けない3月
非常照明が付くトンネル内今から少し前
通り過ぎない冬
凍える中で、
細いかわいい雪病んだようなうす灰色の女の子が言います


「君の意思は君だけのもの、行き先を教えてください」
「誰もたどり着いたことのないところに行きたいです」
「はい 夕焼けも待たず、夜に突入するんでしたよね?」
「はい、僕はそのために生まれたと自分の意思をもっています」
「たどりついたら帰れるなんて、おもっていませんよね?」
「思ってないです。すべてを捨てて、死肉の間を上って」
「ひどいですね」
「僕はそういう人間だし、誰にも、誰にも、誰にも、」
「そんなに自分が特別になりたいの?」
「いや、そういうわけではない」
「君のことを必要としている女性がたくさんいますけど?」
「います。」
「あなたはそれだけの女性の胎内を破って 食べ散らかす」


寒い、いつ復旧するんだろう、
届かない電波、張り裂けそうな、人々の不安
自身とても冷静で、誰も助けない、冷たく 燃え上がる事故現場を
新聞の紙面を読むかのごとき、無関係間、
細いかわいい雪病んだようなうす灰色の女の子が言います


「小さい大人、そうあなた子供のようよ、いつも同じことを言う 頭が悪い証拠だわ」
「そうだね、僕は頭が悪い、悪い頭だが、欲しいものは欲しい」
「自分の器もわきまえずに、とびこむだなんてむだなだけよ 狂人となるだけだわ」
「狂人になっても僕は、最大限の力を持って、その先へ、もっと先へ最大限先へ」
「うそ あなたは夢のようなものにすがって、自身の現実を回避しているだけだわ」
「そうだね、僕は、現実から逃げ切って見せるよ」
「世の中の女性がそれを許さないわ、世の中の強い力がそれを許さないわ」
「強い力は、弱い人のためにあるんだよ、弱い人は、強い力をデコレートして生きないといけない」
「私は、あなたの言う強い力説なんてどうでもいいから 大好きな人にもらったこの服を着るわ 私は弱い?」
「君は弱くないよ」


トンネルいっぱいに広がるガソリンの匂い、燃えるいろいろなものの匂い
あたたかい、何が燃えて僕を暖めるか、どうでもいい
それが人としての冷たさだし
それはいつも現実で行われていることだし
細いかわいい雪病んだようなうす灰色の女の子が言います


「とりにくいものがあるの、棚の上にあるの私の背じゃとれないの あなた背が高いから
取れるでしょう?」
「うんとれる、ほら、取れたよ」
「きもちわるいのよ、誰にでも伸ばすその触手が、触れないで私に 私の内的世界に」
「私を見て」「私を覗かないで」
「私に触れて」「私を触らないで」
「私にお話して」「話しかけないで」


事故の衝撃で、僕は頭をフロント硝子にぶつけて、少し傷ついた
細いかわいい雪病んだようなうす灰色の女の子が言います


「除かれるべきものは、除いてきたんでしょう」
「そうだね 僕はよく手をつけて、いらなくなるね」
「あなたの話は飽き飽きしたわ、もうやめて」
「僕の話は、あっち側まで通じさせるべき涙から」
「もうこれから私を見つけても、認識しないで下さい」