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僕が発掘隊と行動を共にしているとき
羽虫の群がる川原で水汲みをしていると
いつからいるかよくわからないが、ぽつんと女の子がいた
灰色のだらんとした、汚れた感じの服を着ていた
現地の子なのだろう、
すーっと 立ち 目を開いていた
ながいながいあいだ目を合わせていた
滑らかな螺旋がひとみの中に黒く黒く吸い込まれ散った
せせらぎの耳心地よい音も聞こえないほどに


その夜僕は起こされた、ひとりの村の男が、やってきて
「みんなまっている、おどりをみせてやる」
といっていた
僕はついて行った
僕だけが呼ばれた
夜の虫が鳴く闇が支配した森をぬけ
少し広いところにでた
オレンジ色の光が見えた、
洞窟の入り口だ、男はそこに向かった、
中はドームになっていて
中心には火が
洞窟の壁面は赤かった
他にも入り口がたくさんあるようだった


村中の大人が、子どもが集まっていた、
火を中心に、囲んで、3重に座っていた
案内の男は 一番外の輪で腰をおろした
僕もそこに座ろうとしたけど
一番中心、火の前に 座れと、言われ連れて行かれた


火のためか、 湿気のためか、雰囲気のためか
あたまが、赤に乗っ取られていく気がした

いきなり、音楽が始まった
太鼓のようなもの、石のようなもの、あらゆる鳴り物が
少しずつ、小さい音で、重なり合っていった
同じリズムで 同じリズムで 同じリズムで

全ての音が重なった時
揺れる火の向こうに
人影がゆっくりこちらに向かってきた
かき鳴らされる音楽の中に
化粧をした女が入ってきた
あの少女だ
川で見た少女だろうけど
目は合わそうと思っても、ぬるりと避けられ
じらされていた
紅を引き、白い布を巻き、髪を金の細工で留め
耳と足首と手首に金の鈴をつけ
紅潮し、興奮していた


女が火の前についたとき
音は沈んだ
沈黙
燃え、ぱちぱち言う音のみ
息も服がすれる音もしないそこに


リン


少女が踊りを、鈴の音が聞こえ始めた
のびる指先、しなだれる首、しなやかな肢体
愛する、飢えた、悲しみの表情
唇をなめる舌 ゆっくりとした恍惚
鈴の音が、早くなっていった
鈴の音に、従われ ついていくように
さっきの音が、連れられる子供のように、まとわり
積もった秋の木の葉のように重なりあっていった
時には激しく、時には穏やかに
海を旅する 船のように
うねり来る 波に 船体をくねらせるように
音が、おどりが、螺旋を描いて
火を中心に 昇っていった


その時 女に2本の刃物が渡された
音は続いていた
その刃物を
美しい曲線の刃物を
彼女は
しなやかなおどりの中で
自分の
手首にあわせた
皮膚を肉を血管を切り裂いた
赤い血が飛び散った


おどりはそのままつづき
手首を動かすたびに  鮮血が弧を描き  交差し 美しい模様を描き
僕の顔まで飛び散った


美し過ぎた


死に向かってまっすぐに
目がやせ細り
血の気がうせ 青白く
動きが弱々しくなり
足の力がいきなり抜け
倒れた