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兄の葬式の日
二つの花びらがはじけた日
その二つのどちらかのために僕は今こうしている
黒光りしたよく掃除された床に、足元に広がる悲しみを、伸ばされた悲しみを
”桜寺”
僕の住む町ではそう呼ばれています、
狭い低い黒い枠の門の外から見ると、中は水槽のように桜が散り ピンクの風が泳いでるように見えます
見える人は魚も見えるでしょう


隅にこしかけ泣きじゃくる妹
隣に腰掛け
喪服
兄のための涙を細い手の付け根でこするから
黒い深い静かな目も充血して、そこまですると、
白い肌が紅く染み付き
その長い墨染の黒髪が 頬に張り付き
桜色の、
もうだめだった
白い手首を引きぬき
その唇に唇をかさねた
ひらひらと沈む桜の花びらが、その横で
はじけとび
消えた


もう一つの花びら
出棺のとき
僕が殺した兄の棺の上に
ふわり
ピンクの雫がひとひら
棺に溶け入り
兄の遺体に届く少し前で
はじけとび
消えた


花びらがはじけた瞬間、潮の音が遠くで聞こえる狭い小部屋で
扇風機とカメラが回るこの部屋で
いすに腰掛けて 僕は誰かをまっていた
目の前のドアが開くのを