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綺麗な夢を見てほしいから、
僕はシジョウの夢の中の彼女が認識できないところで工作を始めた

おはなすきかな、にじをかけよう、たまはハラハラシーンがあったらいいかな
素敵な服を買って来よう おいしいお菓子を用意しよう

しゅいろって書いてある絵の具を指にとって木の板に塗った
ささくれた木が指に刺さった
背景の空の色

えっちなゆめも見たいよね

僕はスクリーンの裏で、あれこれつくっていた
スクリーンはまだ上映前

僕に捨てられる夢
僕を捨てる夢
僕に被害を受ける夢
僕が襲う夢

夢の作成やりかけて、めんどくさくなった
ぼくは世界の矛盾を明らかにしない

僕は学習し続けた

僕が作りかけた夢を彼女は見始めた
すべてが不完全で歪で病的だった

美という点はなかった

何かしらの一貫した意思もない

洗練されない

経験的でない


シジョウは汗をいっぱいかいて
僕の世界を無いものにして
あせびっしょりの下着を脱いで
シャワーを浴びたいなって言ってそのままねた

川の流れに僕たち二人四本の足を浸した
川の水は何でこんなに冷たく感じるんだろう
あと水ってやっぱり、透明なんだなっておもった
みずいろじゃない 砂の粒が混じったとうめい

水が形を変えても水らしい表面のきらめきで
僕はうれしくなってきた 未来の失望もわかった上で

水って透明だねって僕は自慢げにいった
言語化する無意味さを仄めかした笑みを返された

僕は今日アルミの自転車を盗まれたことと
その盗み者はライトがかっこよくて盗んだということ
盗み物は補助つきの自転車しか乗れないこと

夕方がやってきた 夕方役の人たちは
空気の重さを数グラム重くした
ため息を出しやすいように あたりを暗くした
時間の流れ方もスローモーションをつかいだした
止まる時間とその反動で動き出す時間
それらの意思は脳も体も世界も関係づけられない

青い世界を指示した

この夕闇の青い世界、蒼いのほうがいいかも

さっきから僕らは川辺にいた
不細工な魚ももう見えなくなった

あんなに近くにいたシジョウを
はまっていたギアが外れたように
うまく感じることができなかった
僕と彼女のぬめりがなくなってきた

僕は怖くなって彼女を非常階段に連れ込んで
キスをした 目を開けたら認識できない女の人だった

シジョウは川につばをはいた

僕は舌の上に転がしていた毒を飲み込んだ