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(線香花火をしている少女、僕が登場)


今年も浅墨黒く少年じみて発火していた夏は僕が期待していたより早く病んで、
秋と冬が見えない所まで薄うねり始め それは裏返り苦しむ百足の腹みたいな蠢きで
人との距離を取ろうと 人と出会うことを一つの懐妊と考えていた
境界線を引いて止めた時が、次第に把握されぬまま動き出していた
僕が昼闇から夕闇に向けてのばしていたいやらしい罠にエモノがひっかかっていたので
それを拾いに松任の海岸までやってきた、


(夕方の空に焼け付いた太陽が落ちて、定期の闇が迫る)


夕暮れが、招待されてきて
太陽が焼け焦げて終わっていった
罠の場所がわからなくなって探しているうちに日が暮れた


(最後の線香花火は、湿気ていた)


少女に近寄り彼女の耳にかかった長い黒髪を上げて、耳元で
「線香花火より凄いよ、おいで」と言った。
彼女の手を引き、咲き始めた青白いプラスチックのコスモス畑を通って
海沿いを少し歩いたところにある、コンクリむき出しの展望台
月明かりが、少しまぶしいくらいの4階、最上階に来た


(それはそれはとても大きい満月) 


黒い缶に黄色いラベル白のドットの見慣れたレモンスカッシュの缶が大量に廃棄されていた
こんな廃墟に近い公共施設のごみなんてひろわないな、あたりまえか 
ここには何故か、プールのジャンプ台みたいなオブジェ?があって
展望台から突き出していて
早くお願いだから、一刻も早くみんな自殺して下さいと言っているよう


(少し端っこで彼女と座っていた、少しすると彼女は立ち上がり)


羽が落ちるくらいのやわらかいステップで
ジャンプ台の一番先端ぎりぎり、に立った
片足だけだらしなく脱げているくつした、踏みつけになっているズックのかかと
青いチェックの安い素材の薄いスカート
コスモス畑から千切って盗んできたコスモスの花束を胸元で束ねて歌う
かすれた声で、へたくそな声で


長い髪が風がさらって靡くその髪を指差して 
「これ夕方の海風だからゆーなぎ?」と間抜けに言うから
「夕方の海風から陸風に変わるとき無風状態になることが、夕凪だよ」と僕は説明した。
秋から冬にかけての松任の海岸は好きで、
僕は成長するその時々で世界の果てを想像していて
ちょうど彼女の年頃に想像していた世界の果てと、この季節のこの海岸は似ていて
僕は少し恥ずかしくもあり、失ったものの美しさを飢餓する


(すべてを、真っ赤なビニールの傘さえもモノトーンにし尽くしてしまう。)


そんな海だよ一度来たらいい、
まだ自殺台のヘリに立っている、女子高生にレスカの空き缶を投げた
かばんに当たって、かばんが落ちた、残念ながら彼女は死ななかった。
壊したいのは君だよ、僕のこと好きになって壊れたらいい
って言ったら、じゃあそうするって言って、手を広げて目をつぶって
「キスして」
僕は誰よりも早くその唇を奪おうとして、あと7センチくらいのところで
「駄目よ」って言われて、僕抱きしめ引き寄せて 重心を後ろにそらせて
落ちていった、駄目よって言われてもそのリップでべたついた唇が欲しくて
一緒に落ちた 死んだけど 多分キスできた。