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割れた蒼いガラスの破片は、時間も感性も磨り減ってもう元の形に復元できない。
昨日もいらない恋人が増えた。
地下の巨大な空洞は開いたまま、誰も訪れない。
形も色も合わないパズルが今日も歪んで強引に組み合わされ互いに絶叫し、歪な塔を作る。
そして崩れた。


はじめて君と会ったときから、
その白い肌にうっすらと浮かぶ、
透明なクリームチューブのような青白い静脈の通った、白い手がとても好きです。
困ったことに、その美しい指先に、触れることのできる階級ではないので、
それは果たせないで終わります。 ダイビング中の脳の補完のためにある日街に出て、
革のバイオリンケースを持った、 音大生を捕まえて、
「君の下手な音を奏でる白い手が、あの人の白い手僕が触れられない代わりに、軽く触れさせてくれないか?」と聞いたら、
いいわよ、と言ってくれたので、少し触れた。僕は卑しい。
空を見上げると、星ひとつ見えない、
真っ暗に塗りつぶされたよう赤い渦を巻いた夜だった、
君の白い手に たどり着くために、君の心が優しくそれを許容してくれるために
君の手首が、僕の頬を触り 
緩やかに恥ずかしく紅潮していくのを、


僕が出来ることは、ただひとつだけかもしれない。


僕は部屋の中で傘を差した もうもどれない。