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突き飛ばされて落ちたとき
もうなれた
岬から どぼんと海に落ちた
海の中は泡が湧き出ていて
耳元で色々な国の地方の子ども達が遠くで遊んでるような
細かい細かい音
一つの音の連続ではなく
色々な音の破裂
縦に横に斜めにあらゆる方向に走り
背の高い好きな子をからかうように
南国の鳥のような布を巻き 乳房をあらわにした笑顔が魅了する
いくつもの泡がまとわり着き
漁師が網を引くように
僕の脳のなかに張り巡らされた糸を
しろいせかいに向けて
巻き取られていった


僕はバスを降りた
新しい時間が始まった
後ろの席に誰かいて 何かを耳元でささやいていた気がした
とりあえずバス停のベンチに座った


向こうにすべりだいが見えた
滑り台の上から少年が声をかけてきた
そしていつもの開始の言葉をきいた
彼が見守るべき少年らしい

彼はすべりだいを続けた
はしごを上って上までいき
すべりまたはしごまでいって
はしごを上って上までいき
すべりまたはしごまでいって
くりかえしつづけた

僕はずっと滑り台の下の砂場の縁に腰を下ろして見ていた
彼が言うには
彼はすべりだいをつづけ
死ぬまで続けるらしい
死んでもだれかがそのあとをつぐから
彼はすべりだいをやっている彼だから
死ぬ事はないらしい
また継ぐ人がいなくても
それは単にすべりだいの
降りた所から階段まで歩く少しの時間
ある雨の日 雨は彼に向かって降り
彼がやさしく死に包まれ倒れる横をとおり
僕はバス停に向かった