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紅い錆の匂いの工場でお昼から夕方にかけて
カビた野球帽子の骸骨がやさしい手つきで万華鏡をのぞいて
開いた目の骨に虹彩がきらめく


小さなきらきらしたセイギのプラスチックとか好きだった僕は
骸骨の瞳を盗みたかった


いくつもの銀の手が風を起こしていて
みんなのTシャツの袖を揺らして
制服のスカートをぬがして


さびた手すりが夏空まで丘の上まで続いていて
僕はそこを何回ものぼって
そこを何回も泣いて、暴れて帰った


僕は子供のとき、ああいまでもそうなのか
癇癪した学生の小さな体でも 
受け入れがたい、世の中のつばのにおい拒絶した

僕は机をぶちまけて 教科書をびりびりにやぶって
投げまくった
僕は汚れたくなかったんだ


僕はこの世の中をどうにかして、やり過ごせる鍵をさがした
それは大人が隠すものの中にあると直感でわかった
そして僕の鼓動を早めるものがそうだとおもった


僕は図書館に篭った
甲虫の生殖 エジプトのミイラの作り方 
サルの群れの仕組み ライオンはメスが餌を狩る
子ども向けの哲学書から、理解もしてなかったけどニーチェとか読んでみていた
図書館の分厚い解剖学の女性器のページは折り目がついていた

僕は本で読んだことを学習した
昆虫の名前は全部いえたし
ミイラの作り方で内臓を入れる容器の神様の名前もいえたし
動物の社会性についても僕らと同じなのだと理解していた

女性器についても、確認したかって
なかのいい女の子にみせてっていって見せてもらった
僕だからみせるんだからねと
解剖学の本とちがっていた
(このあともその子が引っ越す2年くらい僕の実験は続いた)


僕は世界に大きく期待してしまっていた
その結果大きく裏切られた

次に僕は自閉しだした
僕と考える僕が離れだした

外の世界に見切りをつけて(僕は外の世界では上手ではなかった 身体の操作など)
内面に潜った

僕はそっから僕だけであそんだ、
いくつもの夜僕は僕としゃべってあそんで

扇風機の風から何かをつかめないか
飲んだサイダーのしゅわっとした感じから何かつかめないか

僕は物語みたいにすごいちからを本気で得たかった
それは科学や哲学や宗教の先にあるって思っていた(ほぼ間違っていた)



ああ そういえば丘の上の小学校はもうなくなっていて
僕の通っていた学校は丘の上になんて無かった


夏の大きな雲の影が動く下、一面に青々しい雑草が茂っていて、さわさわという音を立てて揺れていた。

僕が死ぬまでずっとこの夏草の音が聞こえていた。




end